溢れんばかりの豊かな自然と
万葉以来の歴史と文化に彩られた
長崎県新上五島町
日本三大うどんの一つに数えられる五島うどんは古くから、漁に、農作業にと、日々の暮らしに追われる島の人々の間で、身近な材料でできる保存食として親しまれてきました。長い時間をかけて丹念に作り上げるために生産量が限られていたことから、かつては「幻のうどん」と呼ばれていました。
上五島に生きる人々の素朴な生活の知恵から編み出された地域限定的な郷土料理で、日本のうどんのルーツともいわれるのが「五島うどん」です。
近年、日本の食文化のルーツを探る調査・研究の中で、五島うどんの発祥は、遣唐使が日本と大陸を往来していた奈良・平安時代にまで遡ることが明らかになってきています。
中国・浙江省岩坦地区に現存する「索麺〈さくめん〉」の製造方法が、五島うどんのそれと酷似していることから、遣唐使一行が「索麺」の製法を、遣唐使船の寄港地であった上五島の人々に真っ先に伝えたのではないかという学説が最も有力です。
千年以上の遥か昔、上五島に伝来した手延麺の製法が上五島の風土に根付き、長い時間の流れとともに、島に生きる人々の間でしっかりと伝承され、さらに島人の知恵と工夫とが加味されて、現在の「五島手延うどん」へと結実しました。これこそ、千年の時を経て現代に息づく「奇跡の物語」と指摘する声があります。
透き通るほど美しい五島灘の海水を汲み上げて、じっくりと炊き上げると、ミネラル豊富な「甘い塩」ができあがります。大吟醸の小麦粉を、この海塩と島の清水で丁寧にこね、何度も熟成を重ねるうちに、細くて弾力のある、滑らかな麺に仕上がります。練り上げから、いくつもの工程を経て、乾燥にも充分過ぎる時間を費やします。数日にも及ぶ手間暇をかけて手延麺自体の旨味と、コシのある独特な食感をつくりだします。
五島うどんの栄養素、炭水化物(糖質)は、人間が生きていく上で欠かすことができません。消化・吸収がよく、体内でエネルギー源となるブドウ糖に分解されるため、スポーツ選手が試合前に食べたり、試験勉強の夜食にしたりすることは理に叶っています。
うどんはまた、大豆・肉類・魚介類・卵などのタンパク質食品、葱〈ねぎ〉・白菜・牛蒡〈ごぼう〉・人参・里芋などの緑黄色野菜や根菜類、ワカメや昆布などの海藻類との相性もよく、ヘルシーフードにもってこいの食材です。
お馴染みのキツネうどん、月見うどん、ワカメうどん、天ぷらうどん、山かけうどんなど、まさにバランスのとれたメニューといえます。
また、うどんの薬味として用いられる七味、生姜〈しょうが〉、柚子〈ゆず〉、橙〈だいだい〉、胡麻〈ごま〉、海苔〈のり〉、梅肉〈ばいにく〉など、健康増進に効果が認められているものばかりです。
うどんの栄養素は炭水化物ですから、肥りやすいのでは? という質問がよく寄せられます。
糖質は身体の中でブドウ糖に変化し、さらにグリコーゲンとなって肝臓や全身の筋肉に蓄〈たくわ〉えられます。
ブドウ糖とグリコーゲンは、身体を動かすエネルギー源、譬〈たと〉えると、車を走らせるガソリンのような役割を果たします。同じエネルギー源に脂質がありますが、筋肉中に脂質があっても、筋グリコーゲンがなければ、エネルギーとして燃焼しません。また、脳や神経がエネルギー源として使えるのはブドウ糖だけです。
同じ糖質に砂糖がありますが、砂糖は燃焼しやすい分、長続きがしません。これに対して、うどんの澱粉〈でんぷん〉は、適度な速さで分解されてブドウ糖になるため、即効性と持続性を併せ持つエネルギー源ということになります。
しかも、胃腸に対する負担が少ないことから、ここ一番の「勝負飯」に最適な食事と言えます。
うどんを食べると、澱粉⇒ブドウ糖⇒グリコーゲンとなって、エネルギー源がまず、肝臓に蓄えられます。
このグリコーゲンが不足すると、肝臓の解毒作用が低下して有害物質を処理できなくなります。そうなると、肌が荒れたり、薬物に対する反応が過敏になったり、お酒に弱くなったり、いろいろな症状が現れてきます。
栄養学の観点からも、うどんは消化・吸収がよい上に、美容にもおすすめの食べ物といって間違いありません。